ゆめをみた


歩いて向かった先は、
向かって右手の、4階建てのビル。
正面にも同じくらいの大きさの雑居ビルがあり、左半分に「タイコクラブ」と青い字の看板がかかっていて、若者が階段を上り下りしている。
その4階建てのビルの中には、フロアをぶちぬいて作ったジェットコースターが設置してあり、ほぼ「落下」に近い形で最初の勾配を体験する仕組みになっている。
座席に座る際には、ときたま「さかさ」向きのものもあるので注意が必要だ。
どういうことかというと、進行方向に背を向けている座席が、ぽつりぽつりと存在する。
体の向きを地面と垂直に落下するとき、どっちの向きがよいのか、乗車前に熟考が必要なようだ。



高校生のわたしは、空気の抜けかけた重い自転車を漕いで通学した。
寒い季節。
制服の上に羽織ったものは、ピーコックブルーのダウンジャケット。

学校に着くとそれでは暑かったので、ジャケットを脱ぐ。そしてロッカーを漁って、だれかのお下がりでもらったらしい赤いセーターを羽織る。
80年代もののそれは、丸襟の薄めのニットで、V字型にライトベージュの部分があり、胸元には同じニット地の小さな赤いリボンが付けられていた。袖から脇にかけてダブダブとしたラインで、一昔前だと恥ずかしくて着られない代物。長さは太腿くらいまであって、裾から紺色の制服のプリーツスカートがちょうどはみ出るくらいだった。
その赤いセーターは、生徒のだれかに「おしゃれだね」と言われるのであった。

校舎の階段の踊り場には自販機とカフェスペースがあって、アメリカナイズドされたジャンクフードを購入することができる。
禍々しい緑色のメロンソーダがはじけるコップにアイスクリームが入ったもの、フライドポテト、コーラ、オレンジジュース。そんなものを購入して、女の子が何人か時間を潰していた。



さきほどの4階建てビルだろうか、人がたくさん集まる場所にいる。どこもかしこもゴミが散乱している。
お腹が減ったので、周囲何人かで取り分けるためにピザを注文した。
バジルの乗ったシンプルなクリスピーなピザは数切れしか食べられず、お腹は満たされることがない。

そこへ、宇宙人が侵略してきた、と緊急アナウンスが入る。
何重も連なり次々に人を収容して閉まってゆくエレベーターに、かけこみ乗車する。
わたしが入ったエレベーターは、ほかに2、3人の同乗者がいた。
エレベーターは、ドアを閉めると同時に横に走った。
新幹線なみの速度で、空中を横に移動していった。行き先はわからなかった。
町並みが飛んで行った。



おいしいおいしいと思って食べていた食パンを見ると、大きな黒蟻が大量に練り込まれていた。



一世を風靡した時代の松田聖子が、スタジオでリハをしていた。
衣装は、いつもの聖子ちゃんカットに、上がビスチェ風、下がパニエで膨らませたようなフワっとした、いかにもアイドルの、でも清純そうな、白いレース地のドレス。
胸元に化繊のレースがちょっぴり添えてあり、赤いプラスチックの透けるハートのボタンのようなものもくっついていた。

彼女はずっと「この振りは○○さんの」「こっちの手拍子は△△さんの」と、他の先輩芸能人の、歌っている間のリズムの取り方とか振り付けを覚えてきて、自分はどんなのがいいかしら、と披露していた。
ちょっと方が露出しすぎだね、ということで、スタッフが着衣のままのドレスにサスペンダーを付けに行く。
プラスチックのチューブの縄跳びみたいなピンクの、キッチュなサスペンダー。
手元には薄くて透ける手袋も必要だね、とも。たぶん、肘より長めのものか、ドレスと同じレース地で手首までの、裾にフリルがあしらわれたものになるんだろうなあと思った。



高校時代の友人M子を都内で案内した。
彼女は色々「見える」子だったので、一緒にいると大変だった。駅地下のコンコースでは、頭から血を流した男の人が何人か、通りすがりにぶつかってきた。

表参道の同潤会アパートがあった辺りには、地下まで張り巡らされたスマートな白いコンクリートの施設が出来てた。
一階にはホテルの入り口があって、それはわたしがかれこれ10年前の通院や入院のときに頻繁に使った千駄ヶ谷のホテルだったのだけれど、どうやら移転してきたみたいだった。フロントの人は変わってなかった。
他にも美術館やトイレ、会議室なんかも併設されていた。
地下に潜ると、商業エリア。ナイキやX-ガールやアナスイや、そういった店を適当に案内していると、いちいち感嘆の声があがった。
雑貨屋でM子が頭飾りを買う。
小さな帽子型の飾りに長いリボンがついて、あごの下で結べるようになっている。
一万二千円ほどの商品だ。即決だったので驚いて問いただすと、「だってセールで二千円だよ?」と返って来る。
セール中のものを物色する。
黒や白の大きなリボンや、ピンで固定しないと落ちて来る、モガ風の小さなハット。
濃い緑のギンガムチェックに焦げ茶の皮細工が施してあるヘアバンドは、とても落ち着いた雰囲気で、着ていたワンピースによく合った。端っこのフリンジをくくって、首の後ろから垂らすデザインだった。セール品でないそれは一万円もしたのだけれど、迷った末にカードで買った。

わたしが髪飾りを物色している間に閉店時間が迫り、店を出てM子を岡山に帰さなければいけなくなった。
十分に案内できないまま、駅で彼女を見送った。
さて、わたしも岡山に帰らなくちゃいけないのだけれど、どうも気が進まない。
都内に暮らす姉の家に泊まることにした。

表参道から恵比寿までプラプラ歩いて、適当に電車に乗る。

降車駅で、電車はプールの真ん中に停車した。水の中に飛び込んで、プールサイドまで泳ぐ。そこからよじのぼって外に出て、姉の家に行った。

「原宿の駅前って、ずいぶん空間をとってあるでしょ」、と言われる。
「うんそうだね、どうして?」って問うと、「戦争のとき、いろいろあったからね」、と。M子と一緒に見た、本当はここにいない男のひとたちのことを思い出した。

駅前には桜が咲き始めていて、花見をしなくちゃな、って思った。
姉は友達が居ないから、わたしの都内の友達を集めて祝ってもらおう。
仲良くしてくれるかな。
仲良くしてくれるといいな。



着物の披露会に出席。目の肥えた着物好きの老若男女の前で、新しい帯の結び方なんかをレクチャー。
黒いシルクの艶やかな帯を、前でリボン一個作って、後ろもギャザーのたくさん入ったリボン結び。ゴージャス。

半襟の赤に合わせて、赤いヒールを履いてみるか実験したくてドキドキする。

みんなに披露する作り帯は、夜の帳が落ちてきたような三角型のレースが上にかけてあって、流れ星に見立てたキラキラビーズが縫い付けてある。

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目覚めて
濃厚で幸福な夢を見たなあ、と思う。
夢を見てない間、姉に会えないのはとても寂しい。