秋の夜長にしんしんと積もる


結婚した友人からお手紙とプレゼントが届いた。
竹久夢二の椿柄ハンケチ。
「忙しくて会いに行けないけれど、愛しとーよ!」

彼女と初めて出逢ったのは、地元の小さなライブハウスの前だった。
ビビッドピンクのリュックを背負って道ばたに座っていた無防備なわたしを
よい匂いのする黒髪のオナゴが拾い上げた。

万葉集や、中原中也の話。
恋いこがれて届かない想い、それでも届けたい想い、
明け方のフレンチトースト、迷った時の道しるべ。

音を、花を、風を、言葉を愛し、木や草のラテン名を教えてくれた。
与謝野晶子のようなオナゴだと思った。
いや、幸田文かもしれない。
生活の中にある美しいもの、愛おしいものを丁寧に紡げる彼女のような人が、本当の美人なのだと思った。

おおらかで、まっすぐに恋をし、柔らかく包み込んでくれる、
手梳き和紙のような素朴さと人の手の暖かさを伝えてくれる、
凛とした女性。

日常の些事に追われ、年末に向けての片付けを始めた途端、椿が視界に入って来た。

雪の中に咲いた紅、来年に向けて用意した手帳、しっとりと肌に馴染むシアバタークリーム。
丁寧に加湿器を整え、陽の光を浴び、夜の帳が落ちるのを待つ。

毎日を大切に過ごすことがどれだけ贅沢で、どれだけ豊かなことか、考えた。

秋の夜長は、しんしんと積もってゆく。

愛しとーよ。わたしも。