前略 岡本太郎様
あなたがどこまでの精神の深淵を見たのかを探すべく
今、あなたの昔の絵〜おそらくとても辛く悲しい時代を経て、爆発なんて微塵も思わなかった頃の苦しくて悔しい思いがたくさん詰まった絵〜をなぞりなおしているところです。
のちの調査によると、
あなたは絵の中にニカワや胡粉を使われていたそうですね。
わたしは100均のアクリル絵の具を混ぜています。
キャンバスも100円です。
アカデミックな芸術が今、旧態依然の芸術として横たわっています。
どう思われますか?
太郎さんが生きてたら、クソクラエ、って一緒に蹴飛ばしてるんじゃないかと勝手に察します。
無名の人々がわたしを支えています。
わたしは暮らしに支えられています。
暮らしは無名の人々によって支えられています。
悔しい悔しい
顔のない
女の子の
「痛ましき腕」 は
解放してあげたいんです。
描けないのならば、と切り落とそうとした腕。
今、その腕で、わたしは再び絵の具に触っています。
生きるために刻んだ線は、江戸時代の囚人の刺青に似ていて、木の年輪のようでもあります。
30回生きた証に、30巻のリボンを結びましょう。
あなたが山陽新幹線岡山駅構内に刻んだレリーフを薄気味悪く思いながら
チラチラと眺めて大きくなりました。
あのレリーフより、渋谷にあるレリーフより、
「宇宙人東京に現わる」という映画の方が気になるわたしです。
あなたが息をひきとった病院で、生きるための手術を受けました。
「生きろ」とたくさんの人々に、たくさんの細胞に、そう教えられ、
今、こうやって生きています。
それではいつの日か、あちらでまみえましょう。
21世紀の無名の小娘芸術家
岡本まくず