「 」

おねえちゃんは
月を探しに出たきりで
もうここへはかえってこないもの

わたしは綺羅星になりたくて
胸の奥にそっと仕舞う

あなたが探しに出たのなら

わたしはここで光りましょう

「生きててくれてよかったよ」

ゆるされた とおもった
ひとつひとつ
あしかせを はずしてゆくの


みんなみんな
じぶんをそれぞれ
責めたのよ

じぶんのせいだと
みんなみんな
じぶんのことを
責めたのよ

知っていたかしら
愛されていたこと

あなたが全身で
愛そうとしていたこと

生きていたいと思ったこと

おねえちゃんのお骨をのんだこと

おかあさんが
「あのこをこうやって抱いてやればよかった」って

わたしを抱きしめたこと

おとうさんが
「夕飯を買ってかえっても、あのこがもうおらんのじゃ」
ぽつりぽつりと語りながら初めて泣き崩れたこと

仙台のおにいちゃんが
「スーツを詰めろ 明日帰るぞ」って
玄関の前に立っていたこと
「ねえさん おらんようになった」って

わたし
ずっと
泣きませんでした

つよいこにならなきゃいけなかったから
お人形じゃないの
でも
お人形のふりをしていたわ


みじかすぎる大輪の花に
たくさんのひとが泣いて
傷を刻んだこと

月下美人 
その花 似合っていたのよ
見せてあげたかったのに

もうちょっとで咲くところだったのよ

ブーゲンビリア
照り返す日差しの元で
堂々と咲いていた
たくましく

すずらん
お庭の隅に小さくランプを灯していた


アイリス
雨の中にまっすぐ立っていた


死んじゃった猫のお墓

いつもいつもお花をたくさん摘んで
一緒に入れていたね


鮮やかすぎるおねえちゃんに
日本の菊は似合わないから
オレンジや白のユリを
選んでくれたのよ

せとうちのお魚をいただいたのよ

たくさんのひとに
ありがとうって言いながら


今を生きてるのよ



あんなに苦手だった
フューシャピンクのパーカーを
初めて羽織ったときに
あなたを全身で感じたこと

それからピンク色に守られていること

あなたは知っていたかしら


きれいになりたくて
光りたかった

おんなのこはみんなそれだけで
とてもとてもきれいなのに


それだけでいいのに
それだけできれいなのに

どうしてどうして
泣いているの。



アップルセージとラベンダー。

チーズケーキとフルーツティー