前略 パウル・クレー様

高校時代、大好きで画集を買った画家「パウル・クレー」。
偶然どこかでみつけた「さえずり機械」という絵が好きで、雑誌から切り抜いてルーズリーフに入れて持ち歩いていた。
抽象とも具象ともつかぬ、不思議な形、色、バランス。

本物にはもう12年、会っていない。

技法もわからなかったし画材も知らなかったし、彼の生き方も思想も、なにひとつわからなかった。

この歳になってようやくレンタルビデオでDVDを視聴できるようになり、少し近づいた。
そして、この画家を支持してよかったのだ、と改めて心に焼き付ける。

楽家としての生き方、画家としての生き方、公務員、教師(生活者)としての生き方、
死を悟ってからの制作、自分がいなくなったあとの世界への思いめぐらし方。

わたしも原因不明の奇形の骨をからだに持っています。
長く、パッと見ではわからない闘病の中で
死ぬまでつきあうこの体とともに
世界を慈しみ、純粋に気持ちをプットアウトしてゆくことを
インターネットという現代世界的な手法を借りて、世界のどこかから発信しています。

なにかの会に入ることもなく、個展というものも未だ開いたことがないけれど
いつかまとめて、観る人と対話する機会を持てることを夢見て
こつこつと作っています。

クレーの制作方法からは
偶発性に任せる部分を後押ししてもらった。

自分の手から離してやること。

子育てだって、植物の成長だって、同じじゃない?
かかりきりはよくないよ。
本質が育たなくなる。

必要なのは、意思と自制心だけ。

Paul Klee

あなたの絵は、あなたがいなくなったこの時代に、愛されています。

わたしも
簡素で力強い表現を手に入れたい。

だからこうやって、文字も綴るんだよ。
いつかいなくなっても、だれかが発見してくれたらいい。

どこかのだれかに愛されたらいいな。

いまだ生を受けていない者たちへ。