untitled
もういちど。
すなおであろう。
すべてに、すなおであろう。
無心にクレヨンや色鉛筆を握った頃の記憶。
好きだった色、好きだった線、初めての質感、音、お気に入りのセーター、おさがりで恥ずかしかったお洋服、気に入らない靴下の色、大好きなにゃんこ、押し花、ねだってねだってようやく買ってもらった白いタイツ、ひざこぞうに絶えない擦り傷、赤チン、補助輪付きの自転車、近所のおばあちゃん、苦手な来客、お隣の家のにおい、買ってもらえなかったお人形、へそをとりにくる雷どん。
生きて来た記憶、産まれてきたこと、
産まれてゆくこと、
幾人かの友達のからだの中に、心臓が二つあること。
すべて。
笑って泣いて怒って拗ねて
スキップや口笛ができたら嬉しくて
ト音記号が描けたらかっこよくて
夕ご飯ができる時間の寂しい空気、夕方から夜に変わってゆく時間、シャワーを早めに浴びて出たら、台所からポテトサラダを作るにおいがして、マッシュポテトの器具、レーズン、キュウリ、缶詰のみかん、タマネギ。
夏の終わりの鼻の奥、ツンとする空気と切なさ。
かき氷のシロップみたいなキッチュ色のへこ帯、子供用の白い浴衣のワッフル、憧れたのは紺色朝顔、背に負ったおおきな蝶々。和のリボン。黒塗りの下駄、鼻緒。
お弁当箱の風呂敷の結び方。
初めて行った京都、白い珠石に朱色鮮やかな春日大社。三十三間堂、清水寺、太秦の映画村、南京玉すだれ、溢れ出す。
すべての記憶は宝箱だった。