ゆめをみた

焼肉屋で家族が失態、言葉のわからない紳士を夫と見間違えた母が馴れ馴れしい言動、オモニを心配させてしまう。
その紳士の震える拳骨を、わたしは見た。
渋谷で買い物、映画2時間。
履いて来たのはピンクのビニールサンダルだったはずだが、ストラップがみごとにちぎれている。
代わりに履いたのは黒い別珍がテラテラと光を放ち美しい下駄。
左足の指がうまく分かれてくれない。
白いTシャツ、赤い大判ストールにバッジを三つほどくっつけ、帽子と下駄に藤のカゴという奇天烈スタイル。
渋谷に包帯を巻いたパンダの着ぐるみが何体も走って来る。
あ、従姉妹が入ってるやと思って声をかけるに、拉致監禁され、踊ることしかできない洗脳を施されているのだ、と。
金物屋でノコギリその他購入、先ほどの紳士が鉄やすりを布に巻いて隠し持っているのを見てしまう。
駅反対側、女性用の巨大なお風呂施設(エステ兼)ができあがっている。
女性誌に広告枠、体験入浴特別枠、たくさん。
久々に通った場所は小田急の2階通路らしい、ここは10年程前に来たことがあると思い出し。
新宿、原宿、代官山、中学のころ訪れた広島の街と夢の中にあった街がドッキング。
チープな雑貨を扱うその店の女性店主、子供は男子中学生くらい、ああ、この子が赤児だったころに会ったことあるんだな、と。
線路沿いに歩くと水森亜土ちゃんの専門ショップをみつける。
用無く通り過ぎるも近場に会いたい人がいるはずなので彷徨すること数時間。
夜の7時半、まだ大丈夫か。
駅のさらに反対側、南西の寂れた場所に宿がある。
まぎわらしい名前はきっと思い出せそうにない、「ホテル、いや民宿というもの、街にひとつあればそれでいい」と考える。タクシーに飛び乗って「この街の宿へ」というだけで辿り着けるそんな場所。
繁華街を少し離れ、住宅地の間を歩く。
背後からヒールの中年女性、携帯電話で話している声が丸聞こえ。
なんでも大阪の母親はすでに亡くなり、父と弟がいるらしい。
「お父ちゃんの誕生日に電話したら、わたしに思う存分ばくちを打たせてやり、と言われ、それ以来わたしばくちにはまっとんやわ」
ばくち打ちの会場に一緒に入る。
暗い個室で顔を青く塗った女性が糸で小判のようなものを貝合わせしている。
負ける。
「帰って来たのは千円。使ったのは二千円。でも今日は9千円持っとるんや。おしゅうない。それも人に貰った金や。」
誰に言い訳しているのか、彼女の横を抜け「ちょっと休憩してくるわ」と部屋を抜ける。
顔の前に手をかざし、表面をつるりとなでると別の女の顔になった。
監視カメラの手前、特に気にしない。
寂れた病院の待合室のような玄関を抜け、だれかのフェルト原毛スリッパを勝手に借りて外に出る。
次は顔に手をすべらせ、犬になる。
「神様、なぜ彼女は幸せになれないのでしょうか。」
犬になって呟きつつ、あぜ道を走る。
巷で人気のおじさんと散歩が決定し、種々の生き物仲間に聞いてみる。
まつげのふさふさしたメス犬が「あのおじさまとの散歩なら、一緒にデートしてあげてもよくってよ」と答える。
足を滑らせて谷間に落ちる、瞬間、顔にまた手をあて、鳥になれと祈る。
小鳥になったわたしはそのまま空に舞い、自分のアパートの向かいの男の家に入る。
現代的なものはなんにもない。
わずかに会社への恨みが天井の安蛍光灯に油性ペンで書き散らされ、古い日本の戦艦の模型の箱が置かれている。
果たしてこの部屋の住人がスーツを着用して仕事をしているのか、趣味はなんなのか、ほとんど知る術も無い。