コクリコ坂から

覚え書き。

映画「コクリコ坂から」を鑑賞。
事前情報は、先日NHKの特番で見た「コクリコ坂・父と子の300日戦争〜宮崎駿×宮崎吾郎〜」のみ。

して、この番組が非常に興味深かった。
白髪の宮さんのエプロン姿がいいなあ、とか、息子の眼差しがとても男前だ、とか、メッセンジャーバッグで通勤する姿が若者っぽくていいな、とか、指示を出すときに火をつけてないタバコを使うのはいかがなもんだろう?とか。
「老い」を意識した不器用な男親と、反抗期(というか心理的な父殺し)に終焉を告げようとする息子の、共同制作の始まりと、同じ現場での緊張感を孕んだライバル関係がそこにはあって。
父親の介入を頑なに拒否するではなく、その道で長く闘って来た先輩からの助言として、どれだけ自分の製作に生かすか。
ゲド戦記があまりに冗長過ぎたけれど、今作は期待を持ってもいいんじゃないか、と。
そんな風なことを感じた。
そして足は劇場に向かった。

話は翻って、「コクリコ坂から」本編。
テレビで見る予告からは、孤独でほの暗い雰囲気の、人の離別が描かれた映画なのかと勝手に思っていたんだけど、そんなことはなかった。

序盤は、アニメの動きの硬さや、演出の細かな場所に「ああ、そうじゃないのに!」と心の中で突っ込みを入れつつ鑑賞。
だけどいつのまにか、あの世界に引き込まれていた。

日常生活の丁寧な描写、男子学生たちの群衆劇、ドタバタ、魚屋や肉屋が並び、オート三輪が走る、オリンピック前の昭和の町並み。ガリ版で作る新聞や、体育館に生徒たちを集めて演説だとか、「◯◯を××せよ!!」タイプの手書きの看板が所狭しと並ぶ学生用の古い洋館。
これって、戦時中と戦後すぐに生まれた自分の親の世代の学園生活なんだな。
モノクロームの古いアルバムでしか知らなかった、若い両親の制服姿や学園生活を、思わず思い浮かべ、主人公の周りの風景に投影してしまった。

BGM、とてもよし。ジブリ絵なのに久石譲頼みでないところが、新鮮。
手蔦葵さんの歌声も、映画の持つ雰囲気や街並に染みる。

魔法も飛行シーンもへんな生き物も出てこない。手に汗握るシーンもない。このヒロインには、世界を救うような大義もない、ただ、毎日の細かなことを切り盛りして、我々と同様、普通の女の子として生きているだけ。だから、半径5mの距離でのちょっとしんどいことって、あるよね、それは鑑賞者のわたしたちにもわかるよね、っていう。

でも今の時代は、少なくとも3.11以降の今は、それがいいのだと思う。心の中にポっと小さな灯りを灯してくれるような、そんな深い場所の印象に残る映画が観たかったんだ。

欲を言えば、主人公たちの気持ちというか心の機微というか、そんな描写がもう少し欲しかったな。
恋愛ものとして観ると、物足りない。
でも学園青春ものとして観ると、なかなか楽しい。


劇中にはわりといい台詞が二カ所ほどあって、(以下、うろ覚え)

・主人公の母が、亡くなった主人公の父のことを話すとき、「本当にいい男だったのよ」みたいなことをいうところ
・「わたしたちは兄妹かもしれない」と告げた主人公たちの会話。
「安っぽいメロドラマだ」「、、、どうすればいいの?」



元々「上を向いて歩こう」というキャッチコピーが好きではなかったのだけれど、劇場を出る時は、どんな時も黙々と旗を揚げ続ける、けなげでまっすぐなヒロインの姿勢に、まあそのコピーもありか、と思ってしまったのであった。

感性が大人向けの映画です。
かつて少年少女だったひとたちに、元気を失ってしまったひとたちに、一瞬でも楽しんでいただけたら嬉しいです。

ちなみに。
この映画に出てくる男の子二人、イケメンですよね。頭が良くて行動派で人気者で、ふつうのイケメン(笑)そんなところに、なんだか安心した。

自分の評価:ジブリの近年の作品の中では、アリエッティハウルより格段に上です。観てよかった。

挿入歌の歌声に惹かれて、思わずポチっとしてしまいました。

The Rose~I Love Cinemas~

The Rose~I Love Cinemas~