だれかが息を引き取った日、新しい産声が聞こえた。

気圧も湿度も意地悪で
あちこちの神経が
キイキイと悲鳴をあげている

蒸し暑さと息苦しさで
呼吸がままならない日中

ほんの数年前のことも思い出せないのだけれど
そんな
そんなもんかな

虚を衝くのは鈍色の残骸で
そのつど足元を掬ってゆくもんだから

また来たか また来たか
よきにはからえ みなのしゅう

どうにかこうにか
暗雲が流されてゆくのを待つことにした

晴れない空などないし
曇らない空もない

あれもあり
これもあるのだということを

なるだけ呼吸正しく見つめることにしよう

猫をなでたら
小さな額に鼻に耳の動きに
ゆらめく水晶体に
およそ人の手には作ることのできない造形に

すべての慈しみが
堰を切ったように・・・

追いやられた感情を思えば
目眩もしようし

目の前の事実を悲しみとして受け取れない
そんなしんどさも知っているのだ

「泣ける」
そんなチープな宣伝文句には背を向ける
「泣ける」ではない、「泣く」のだよ

涙の一粒でさえ大事なものであることを
知らないで「泣ける」だなんて
ほんとうに涙が必要な時に
なにも出て来ないことを知ってるのかしら


遠く、近く、
愛情をかけたぶんだけ
寄り添ってくれるあの三画耳の美しい生き物に
どれだけ助けられてきたかわからない

血縁でも権力でもなんでもない
ただある、互いの愛。
愛以外のなにがこの絆をつなぐと言うのだろう


三毛ちゃんがうちのこになった日
三毛ちゃん以外のきょうだいたちは保健所に行った

暗闇でゴミを漁っていたチビたんは
嬉しいとおひげがピンと立つ
美人で気性のやさしい娘になった

暮らせなかった命にごめんなさい。
生きてくれた命にありがとう。

猫が熱心に毛繕いしてるついでに手をなめてくれるときって幸せじゃない?ああ、おこぼれにあずかった〜って。

この感覚、この感覚知ってる人、
どうか覚えておいてね
たいせつなことだから。

きっとね。