ゆめをみた
ピアノの音がする
口頭では到底再現不可能な
和音の美麗レイヤー
教室で先生が生徒に起立させ答えさせる
「なぜこのようなメロディになったのですか」
「モーツァルトはピアノで弾き語りをしていたからです」
折りたたみ式、椅子の前に後に広がる新式チェンバロのような花模様の装飾が絵筆で丁寧に施された白いピアノを弾きながら
モーツァルトは歌う
しかしその実そこに座るのは
ハイドンだろうがバッハだろうが誰でもよかった
わたしはソルフェージュが壊滅的に出来ないから
ひとの名前も顔も年号も肩書きも覚えられないから
感じたものを体に刻むことしかできないから
毛布は黒地に赤いテリアの模様
音符が染み込んでゆく子守唄
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ゆるやかな傾斜の貝の殻のように広がる階段教室の左中央で
右後ろに座っているあなたに出逢いました。
最近はボイストレーニングをしているんだとおっしゃる
あなたのあんな快活な笑顔は初めて見ました。
そんな顔が出来るんですね
わたしは少しほっとして嬉しくて
「またあとで」
と言いました。
「また」はないのだと何時も思っていたから
「またあとで」という言葉の響きが持つ
軽妙さや気安さに
自分でびっくりしました。
遠くいつも
どこかにいる
あなたの人生に
あの笑顔がありますように。